メガバンクのシステムも止まるのに、なぜホームページは絶対止まらないと思ってしまうのか

先日、管理しているサーバーで不正アクセスによるトラブルが発生しました。
幸い発見が早く、迅速に対応できたため、大きな被害には至りませんでしたが、一部のシステムが停止するなどの影響がありました。

正直、発覚したときは冷や汗が出ました。
「どこまで影響が広がっているだろうか」
「お客様にはどう説明しようか」
「早く復旧しなければ」
そんなことを考えながら対応に追われていました。

誰もが知るメガバンクのシステムや、日常使われている電子マネー、あるいは大手航空会社のシステム。潤沢な予算があり、超優秀なエンジニアたちが24時間体制で監視していても、時に大規模なシステム障害を起こしてニュースになります。

ITの世界において「100%絶対に落ちないシステム」は存在しません。
それなのに、ホームページやメールについては、24時間365日動いていて当たり前。絶対に止まらないものだと思ってしまいがちです。

インターネットにつながっている以上、100%の安全は存在しない

不正アクセスやサイバー攻撃の話をすると、「しっかり対策していれば防げるのでは?」と思われるかもしれません。
しかし現実には、インターネットにつながっている以上、100%の安全は存在しません。
鍵を掛けても空き巣被害がゼロにならないのと同じです。
防御する技術が進歩している一方で、攻撃する技術もまた進歩しており、防御側と攻撃側の終わりのないいたちごっこが続いているのです。
今や、セキュリティ対策の目的は、「絶対に侵入されないこと」ではなく「侵入されにくくすること」 そして、「被害を最小限に抑えること」にあります。

「日本語の壁」という天然の要塞が消える

これまで日本のサイバーセキュリティは、図らずも「日本語の難解さ」という天然の要塞に守られてきた部分がありました。海外のハッカーが送ってくる怪しいメールや攻撃の文面は、機械翻訳特有の「不自然な日本語」が多く、私たちは直感的に違和感を抱くことができたからです。
しかし、生成AIの爆発的な進化によって、その防壁は完全に崩壊しました。
今のAIは、日本人でも見分けがつかないほど自然で、丁寧で、私たちの心理の隙を突くような完璧な日本語を秒単位で大量に生成してきます。
つまり、悪意の「質」が桁違いに上がっているのです。

全方位から降ってくる「悪意の豪雨」

さらに、現代のサイバー攻撃は、特定のターゲットを狙い撃ちするものだけではありません。
今や主流となっているのは、「不正ファイルの無差別大量投下」です。
攻撃者は、特定の会社を恨んで攻撃しているわけではありません。
全自動化されたプログラムを使って、インターネット上のあらゆるホームページの「隙(脆弱性)」を、24時間365日、手当たり次第に探しては攻撃コードをばらまいています。
それはまるで全方位から降ってくる「悪意の豪雨」の中に立ち続けている状態に等しい。
傘を差して防ごうとしても、これだけ激しい雨が容赦なく降り注ぐ中を、一滴の雨粒にも濡れずにすり抜けることは多分できません。
ネットワークに繋がっているという、ただそれだけの理由で、世界中から無数の雨粒が絶え間なく叩きつけられる。
これこそが、私たちが日々直面している「終わりなきいたちごっこ」のリアルなのです。

海外のレストランにいた「シュッとしたウェイター」の話

昔海外のホテルのレストランで食事をしていると、突然ゴキブリ(!)が現れたんです。
日本ならちょっとした騒ぎになりそうな場面です。

しかし、その海外のレストランのウェイターさんは違いました。
現れた虫を見つけるや否や、実に見事な手さばきで、一瞬で退治したのです。
そして、何事もなかったかのように「私が対応しましたから、もう大丈夫ですよ」と、シュッとした涼しい顔で微笑みかけてくれました。

日本であれば、まずウェイトレスさんは虫を怖がってパニック。「衛生管理はどうなってるんだ!」と騒ぎになり、お店側は平謝り…という光景が目に浮かびます。
「100%出さない(未然の防御)」が前提だからです。
けれど彼は「自然界にいるんだから、入ってくることはある。大事なのは、目の前に現れたときに、私がプロとして最善の対処をしたことだ」というスタンスだったのです。

当時の私はその姿を見たとき「文化の違い」を強烈に感じただけだったのですが、これからのサイバーセキュリティに必要なのは、まさにこの「海外のウェイター」の思想ではないかと思っています。

リスクヘッジからレジリエンスへ

これまでの日本のITは「虫を1匹も入れない(未然に防ぐ)」という日本らしい完璧主義で守られてきました。
しかし、ネットワークが世界中と繋がり、AIによって攻撃の精度と手数が桁違いに上がった今、その「完璧主義」には限界がきています。
どれだけ網戸を厳重にしても、すり抜けてくる虫をゼロにはできないように、どれだけ強固にセキュリティを固めても、すり抜けてくる悪意をゼロにはできません。
あらぬ方向から降ってくる悪意の豪雨の中では、傘を差しても濡れてしまうでしょう。

セキュリティ対策だけでは「絶対に侵入されないこと」を目指すのが難しくなった今、本当に大切なのは「万が一入られたときに、いかに早く気づき、被害を最小限に抑えて、早く復旧できるかという、有事の対応力(レジリエンス)」です。

最後に

どれだけ技術が進歩しても、トラブルを完全になくすことはできません。
だからこそ大切なのは、「何も起きないこと」ではなく、「何か起きたときに対応できること」なのかもしれません。

そして、もう一つ感じたことがあります。
それは、お客様との信頼関係の大切さです。
大手のシステム障害のニュースなどでは、苦情や問い合わせが殺到したり、現場がパニックになる光景を目にします。しかし驚くべきことに、今回ご迷惑をお掛けしたお客さまからは、そうしたお叱りや問い合わせはただの一件もありませんでした。
異変に気づいた直後から「今何が起きているか」「どう対処しているか」「復旧への進捗はどうか」などを私たちから逐一お伝えし続けたところ、お客様は誰一人として感情的になることなく、対応を静かに見守ってくださいました。
問い合わせ対応に追われる時間が一切なかったからこそ、私たちは復旧作業に100%集中することができ、結果として障害を最小限に抑え込むことができたのです。

ホームページの保守というと、サーバーやシステムの話ばかりになりがちです。
しかし実際には、何かあったときに連絡が取れること。 相談できること。 迅速に動けること。 そうした日頃の関係づくりもまた、大切な危機管理なのだと思います。

今日もホームページが普通に動いている。 実はそれだけでも、結構すごいことなのです。