わたしは毎朝、鏡を見るのが習慣でした。
顔を洗って、髪を整える。
いつもと変わらない朝。
でも、その日は違いました。
鏡の中のわたしが、瞬きしたのを見たんです。
わたしより、一瞬早く…。
その時は気にも留めませんでした。
恥ずかしながら、朝はいつもバタバタしているので、その日もいつも通り出かける準備をして、大急ぎで家を出ました。
翌朝も、わたしは鏡の前にいました。
「今日も1日がんばろう」
そう思って、鏡の中の自分見たんです。
すると、鏡の中のわたしが笑ったのです。
一瞬だけ…。
最初は気のせいだと思うようにしていました。
でも、日を追うごとに、その違和感は無視できなくなっていきました。
髪を整えようと手をあげると、鏡の中のわたしは少し遅れて手をあげる。
口を閉じているのに、鏡の中のわたしはかすかに口を開けて何かを呟いている。
鏡の中のわたしが勝手に動いて、わたしと少しずつズレていく…。
やがて、鏡の中のわたしは、わたしより自然に笑うようになりました。
ある朝。
いつものように鏡の前に立った瞬間、世界が反転しました。
気が付くと、わたしは鏡の中にいました。
鏡の外側では、わたしが朝食を食べ、家族に笑いかけ、スマホを見ていました。
わたしの顔で。
わたしの声で。
わたしの名前で。
あの日、わたしは鏡の中へ追い出されました。
部屋の中では、わたしの顔をした”何か”が仕事をし、友人と話し、家族と笑っていました。
誰一人、気付きませんでした。
…
もちろん、これは鏡の話ではありません。
私が管理していたホームページの話です。
ログには、確かに”わたし”がいました。
でも、それはわたしはではありませんでした。
※この話は、実際のホームページ管理で経験した出来事をもとに、一部演出を加えて構成しています。