わたしはいつも家中の鍵を確認します。
職業柄ということにしておきます。
玄関。
勝手口。
窓。
すべてちゃんと閉まっている。
「うん、大丈夫。」
そう思った、そのときでした。
……
誰かいる?
部屋の奥に何かの気配がする。
気のせいだと思いながら、念のため部屋を見回りました。
すると、見覚えのない箱がひとつ置いてありました。
もちろん、わたしが置いたものではありません。
気味が悪くなって、すぐ外へ出して処分しました。
これでもう大丈夫。
そう思って部屋へ戻ると――
さっきと同じ場所に、同じ箱が置かれていたんです。
「えっ…、どういうこと?」
もともと2つおいてあったのかな…?
そう思い、もう一度その箱を外へ運び出しました。
やれやれと、部屋に戻ると、
「…うそでしょ。」
また、同じ場所に同じ箱が置かれているのです。
わたしは、またその箱を持って外へ運び出しました。
けれど、部屋へ戻るたびに、また箱が置かれている…。
わたしはその後も何度か箱を外へ運び出しましたが、さすがに怖くなって友人を呼ぶことにしました。
ほどなくして友人が到着し、一緒に部屋に戻ってみると――
例の不審な箱が、一つではなく、部屋のあちこちに置かれていたのです。
わたしと友人は、夢中でその箱を外へ運び出しました。
ひとつ、またひとつ…。
それでも、部屋へ戻るたびに、また箱がある…。
減らない。終わらない。
まるで、この部屋が箱を生み出しているようでした。
増え続ける箱をしばらく眺めていた友人が、小さくつぶやきました。
「まずいな、これ。…間に合うといいけど。」
「え?」
「この箱は、誰かが持ち込んだものだ。」
「じゃあ捨てれば…」
友人は首を横に振りました。
「いや。箱を捨てても終わらない。」
「どうして?」
「まだ、この部屋に自由に入って来られるから。」
「でも…鍵は全部閉まってるよ?」
わたしはそう言いました。
友人は部屋を見回しながら、静かに答えました。
「そう見えるだけかもしれない。」
「え…?」
友人はもう箱には触れませんでした。
窓を見て、玄関を見て、床を見て。
何かを探しているようでした。
「箱は後でいい。」
「え?」
友人は、部屋の隅を見つめたまま言いました。
「先に、入口を見つけよう。」
「入口って…?鍵は全部かかってるんだよ?何度も確認したんだよ!」
わたしは何かが部屋に入り込んでいるかもしれないことが怖くなって、少し取り乱してしまいました。
友人は、そんなわたしには目もくれませんでした。
玄関の鍵を替え、
窓の隙間を塞ぎ、
換気口を確認し、
床下をのぞき込み、
壁のひびまで埋めていきました。
「そんなところから入れるわけないよ。」
わたしは思わず笑ってしまいました。
「入れるかどうかじゃない。」
そう言って、部屋と外が通じる場所を、片っ端から塞いでいきました。
作業を終えるころ、それまで次々と現れていた箱は、もう増えなくなっていました。
「終わった…?」
わたしがそう言うと、友人は静かに首を振りました。
床に置かれた箱を一つ持ち上げて、
「今から全部運び出す。」
「…全部?」
「一つ残らず。」
夜が明けるころには、部屋から箱はすべてなくなっていました。
友人は最後にもう一度、新しい鍵を確かめると、
「これで大丈夫。」
そう言って帰っていきました。
あの夜、わたしが本当に怖かったのは、不審な箱ではありません。
鍵が閉まっていると思い込んでいたこと。
そして、もっと怖かったのは…
事実、鍵はすべて閉まっていたこと。
…
これは、わたしが管理していたWebサーバーの話。
本当にあった話です。